ノーコードに過度な期待は禁物。基幹システムと切り離し「簡易な社内手続き」だけに絞ってきた理由

ノーコードに過度な期待は禁物。基幹システムと切り離し「簡易な社内手続き」だけに絞ってきた理由

VBAやGASの限界とノーコードへの高まる期待

「社内の業務効率化を進めたいが、ノーコードツールで手軽にシステム化できないだろうか」——最近、中小企業の経営者や役職者の方々から、このようなご相談を受ける機会が非常に増えています。現場の業務と基幹システムの間にある、いわゆる「ラストワンマイル」の業務。ここには長年、手入力や重複作業といったボトルネックが存在していました。多くの企業では、これまでExcelのVBAやGoogleスプレッドシートのGAS(Google Apps Script)を駆使して、現場主導で何とか課題を解決しようと試行錯誤してきた経緯があります。私自身もこれまで数多くの現場に入り込み、VBAやGASを活用して業務改善を支援してきました。しかし、属人化やメンテナンスの難しさに直面し、「もっと誰もが簡単に扱えるツールはないか」と模索する日々が続いていたのも事実です。そんな中登場したのが、kintoneやPower Appsに代表されるノーコード・ローコードツールでした。「プログラミング不要で現場が自らシステムを作れる」という触れ込みは、業務DXに悩む経営者にとってまさに救世主のように映ったことでしょう。

ノーコードの正体は「安全なWeb版Excel」に過ぎない

しかし、あえて申し上げます。ノーコードツールに過度な夢を見てはいけません。ノーコードで対応する業務は、稟議や休暇届といった「簡易な社内手続き」だけに厳しく絞り込むべきだと考えています。ノーコードツールが万能であるかのような期待は、かえって現場の混乱と開発の頓挫を招きます。ノーコードツールの構造を分かりやすく言えば、「Excelのシートを複数人でWeb上から安全に読み書きできる仕組み」に過ぎません。システム開発の世界には、データの基本操作を表す「CRUD(クラッド)」という概念があります。作成(Create)、閲覧(Read)、更新(Update)、削除(Delete)の頭文字をとったものです。ノーコードツールが提供しているのも、本質的にはこの4つの操作だけです。ユーザーが申請データを作成し、一覧画面で閲覧し、承認者がステータスやコメントを更新し、不要なデータを削除する。この組み合わせで完結する業務であれば、ノーコードツールは極めて高い効果を発揮します。Excel共有ファイルで頻発する「誰が更新したか分からない」「他人のデータを誤って書き換えてしまった」といったトラブルも、柔軟なアクセス権限の設定によって安全に防ぐことができます。

ラストワンマイル接続で露呈する「ノーコードの壁」

コロナ禍をきっかけに、紙の申請書類を電子化する手段としてノーコードツールは一気に普及しました。それ自体は素晴らしい成果ですが、問題はここからです。「これだけ簡単にシステムが作れるなら、基幹システムとの連携やラストワンマイルの自動化もノーコードでやろう」と考え始めた瞬間に、大きな壁にぶつかります。実際の業務システム同士を繋ぐラストワンマイルでは、単なるデータの読み書き(CRUD)にとどまらない高度な処理が求められます。他システムとのAPI連携、条件に応じた自動計算、複数の数値を結合・変換する処理など、複雑なロジックが不可欠となります。これらをノーコードツールの枠内で無理に実現しようとすると、ツール本来の強みが失われ、かえって保守不能な複雑怪奇な仕組み(ブラックボックス)が完成してしまいます。ノーコードツールは、ロジックが複雑化すると途端に機能しなくなる特性を持っています。本格的なシステム連携や複雑なロジックを要する領域は、プログラミングによる適切な開発に任せるべきであり、ノーコードで解決しようとしてはならないのです。

道具の「割り切り」こそがDX成功の鍵

ノーコードツール導入で成功を収めるための秘訣は、道具の役割を明確に「割り切る」ことにあります。ノーコードツールは、基幹システムを置き換えるものでも、複雑な業務プロセスを自動化する魔法の箱でもありません。「これまで紙やメールで行っていた簡易な社内手続きを、手軽に電子化するための手段」と定義することが重要です。この割り切りさえできていれば、社内の日常的な手続き業務は迅速にデジタル化され、業務効率化とペーパーレス化を確実に推進することができます。逆に、基幹システムとの接続や複雑なデータ処理を伴うラストワンマイルの課題に対しては、ノーコードに頼らず、適切なシステム投資と技術選定を行っていくべきだと考えています。経営者や役職者がノーコードツールの限界と本質を正確に理解し、適用範囲を正しく見極めること。これこそが、無駄な投資や現場の混乱を避け、真の意味で社内のIT化・DXを成功へと導く唯一の道筋なのです。