「困ったら自分たちで直せる」組織へ。ベンダーコントロールと自走化を両立する情シス・現場のあり方

「困ったら自分たちで直せる」組織へ。ベンダーコントロールと自走化を両立する情シス・現場のあり方

経営者の悩み:「うちも自社でシステムを直せる組織にしたい」

「自分たちでプログラミングを行い、システムをメンテナンスできる組織を作りたいんだ」――。最近、中小企業の経営者の方々と面談をする中で、このような切実な相談を受ける機会が非常に増えています。多くの企業がデジタル化やDXを掲げ、さまざまなシステムを導入してきました。しかし、運用が進むにつれて「ちょっとした現場の変更すら自分たちで手が出せない」という構造的な問題に直面し、強い危機感を抱かれているのです。

実際、私自身もある経営者から「現場の業務効率化を進めたいのに、何ひとつ進まない」という悲鳴のような相談を受けたことがあります。社内の日次作業を少し自動化したいだけなのに、見積もりを取れば高額な費用が提示され、開発ベンダーとの打ち合わせに何週間も費やした挙げ句、納品されたものは「現場の使い勝手と微妙にズレている」という結果に終わったそうです。結局、現場の担当者は「外部に頼むくらいなら手作業で我慢したほうがマシ」と諦めてしまい、社内には不効率な手作業が残り続けていました。この悪循環を断ち切り、自社の手で業務を変えられる自走組織を作ることこそが、経営者の悲願となっているのです。

「すべて内製化」は罠――「餅は餅屋」で切り分ける正しい領域設定

ただし、ここで絶対に陥ってはならない罠があります。それは「すべてを自分たちで作れば解決する」という極端な内製化思考です。例えば、会計システムや基幹の人事労務システムを自社でゼロから内製化しようとするのは明らかに間違いです。こうしたシステムには、膨大かつ高度な法制度の知識や業界標準の業務プロセス、強固なセキュリティ対策が求められます。これを社内リソースだけで構築・維持しようとすれば、莫大な工数とリスクを抱え込み、本業を圧迫することになります。

ここで重要なのが「餅は餅屋」という徹底した切り分けの思想です。高度な専門知識と標準化が求められるコアシステムは、パッケージベンダーが提供する安価で高品質な製品を利用すれば十分です。専門領域はベンダーという専門家(餅屋)に任せるべきなのです。一方で、自社固有の細かい現場業務や、部署間の細かなデータ連携においては、他ならぬ「自社自身」が最も精通した餅屋です。ベンダーに頼るべきコア領域と、自社で素早く改善を回す現場領域を明確に分けることこそが、内製化の第一歩となります。

社内の「マクロ職人」を掘り起こす――身近なツールが生む大きな効果

自社が餅屋となるべき現場の業務効率化において、必ずしも高度なWebアプリケーション開発やプログラミング言語(PythonやJavaなど)を習得する必要はありません。真に活躍するのは、Excelマクロ(VBA)やGoogleスプレッドシートのGAS(Google Apps Script)といった、すでに社内に馴染みのあるツールです。これらは基礎さえ学べば、ITが好きな従業員なら誰もが使いこなせるポテンシャルを持っています。

実は、多くの企業の中には「マクロ職人」と呼べるような、個人的な興味や工夫で業務を自動化している優秀な人材がすでに潜んでいます。集計作業を一瞬で終わらせるツールを個人的に作っていたり、データの転記作業を自動化していたりする従業員です。しかし、従来の組織構造では、こうしたリソースが個人の「隠れた趣味作業」として放置され、組織的な強みとして生かされていません。この埋もれた人材とスキルを公式に掘り起こし、社内の内製化基盤として位置付けることこそが、最もコストパフォーマンスの高い生産性向上アプローチなのです。

内製化の成否は「コード」ではなく「制度」で決まる

なぜ、これまで社内のマクロ職人やDX意欲のある人材が組織全体の生産性向上に貢献できなかったのでしょうか。その最大の理由は、スキルやツールの不足ではなく「組織体制と評価制度の不在」にあります。どれほど優秀な従業員がマクロを組んで部署の業務時間を大幅に削減したとしても、本業の評価に関係がなく、給料や昇進に反映されないのであれば、人間はおのずとそうした活動をやめてしまいます。「頑張っても評価されないなら、余計なことはしない」となるのは当然の心理です。

中小企業の社内には、DXやAI活用による業務改善に挑戦したいと考えている意欲的な人材が想像以上に多く存在します。しかし、評価制度が追いついていないためにその意欲が食いつぶされ、最悪の場合「自分のやりたい挑戦や正当な評価が叶わない」と感じた意欲ある人材が他社へ流出してしまうケースすらあります。内製化と自走化を進めるために経営者が最初に取り組むべきは、プログラミング教育などではなく、「社内で内製化と生産性向上を強く推進する」という宣言と、それを行う人材を公式にアサインし正当に評価する組織設計・人事制度の整備なのです。

自走化組織へのステップ:組織アサインと正当な評価体制

具体的な組織づくりのアプローチとしては、情シス部門内に「業務効率化専任チーム」を設置する形や、経理・生産管理・営業などの各事業部門から横串を通した「効率化担当者」を配置する形態が非常に有効です。そして何より重要なのは、彼らが行った成果――「現場の作業時間がどれだけ削減されたか」「どれほどエラーが減り業務スピードが上がったか」――を定量的に測定し、正当に評価する評価者を明確につけることです。

現場の上司がITや効率化に疎い場合は、横串で組織を監督する管理者が成果を正しく評価する仕組みを作れば問題ありません。自分の取り組んだ業務改善が公式な役割として認められ、正当に評価される環境が整えば、アサインされた担当者は強いモチベーションを持って成果を出し続けます。「困ったら自分たちで直せる」組織とは、高度なITツールを導入した組織ではなく、現場の小さな改善活動が組織的に評価され、循環する仕組みを持った組織のことなのです。

「直せる組織」をつくるのは経営者の意思と制度設計である

ベンダーコントロールと自走化を両立する「困ったら自分たちで直せる」組織づくりについて論じてきました。システムをすべて外部ベンダーに丸投げする構造からは、永遠に現場の効率化は生まれません。コスト・コミュニケーション・時間の壁によって現場が手作業を強いられる悪循環を断ち切る必要があります。

しかし、その解決策は「全システムの無謀な内製化」でもありません。会計システムなどの専門性の高いコア領域はパッケージベンダーという「餅屋」に任せ、自社の細かな現場業務という「自社が専門家(餅屋)である領域」に焦点を絞り、ExcelマクロやGAS等の身近なツールで内製化を図るのが正解です。そして、この内製化を成功させる鍵は技術力ではなく、経営者による強い推進宣言、効率化担当者の明示的なアサイン、そして成果を正当に報いる組織・評価制度の確立にあります。適切な人事制度と組織設計という第一歩を踏み出すことで、意欲ある人材が集まり、自走し続ける強い組織が完成するのです。