なぜシステム内製化の現場で若手が次々と去っていくのか
これまでベンチャー企業から中小企業まで、数多くの企業のDX支援やシステム開発の現場に立ち会ってきました。そこで嫌というほど耳にしたのが「自社で内製化できる組織を作りたい」という切実な願いです。しかし、理想と現実はあまりにも乖離していることが多く、若手エンジニアを採用したものの、数ヶ月で退職してしまうという話を繰り返してきました。
当初、私は技術的なミスマッチを疑っていました。しかし、現場に入り込んで実情を見ると、問題の所在は技術よりも遥か手前、つまり「組織構造」と「人事制度」にあると確信しました。
「理解者不在」が招く孤立
ある企業では、意欲ある若手プログラマーを採用し、既存のシステム部に配属しました。しかし、その部長はベンダー管理の経験はあっても、コードを書いた経験は皆無でした。若手は技術的な悩みを抱えても相談できる相手がおらず、経営層からは「DXを早く進めろ」というプレッシャーだけが降りかかる。結果として、彼は社内で孤立し、早晩去っていきました。
エンジニアは、単にコードを書く仕事をしているわけではありません。自分の書いたものがシステムとしてどう機能し、どうビジネスに貢献するのかを理解したいと考えています。しかし、上司が技術的な議論の土俵に立てない組織では、彼らは自分の価値を証明する機会すら与えられず、ただの「作業者」として扱われてしまうのです。
採用ミスマッチの負の連鎖
組織構造の問題は、採用プロセスにも影を落とします。技術を知らない部長や人事担当者が面接を行えば、候補者の真の能力を見極めることは困難です。結果として、優秀なエンジニアからは敬遠され、市場価値に疑問符がつく層ばかりが入社してくることになります。
優秀なエンジニアは、自分より高い視座を持ち、尊敬できるリーダーがいる環境を求めます。類は友を呼ぶと言いますが、これは採用にも当てはまります。レベルの低い環境には優秀な人材は集まらず、残ったメンバーで品質を維持しようとしてさらに疲弊する。この負のスパイラルを断ち切るには、組織のあり方そのものにメスを入れなければならない。それが、当時私が現場で繰り返し痛感したことでした。
専門組織の分離という決断
では、どうすればこの壁を乗り越えられるのでしょうか。私がたどり着いた最も重要な第一歩は、既存のシステム部という枠組みに固執せず、独立した専門組織を切り出すことでした。
「とりあえずシステム部の下に置いておこう」という発想では、同じ失敗を繰り返すだけでした。エンジニアが本来の力を発揮できる環境、つまり技術的な意思決定権を持ち、成果を正当に評価できるトップを配置した専門部署を設立すること。ここに優秀なリーダーを据えることができれば、そこから磁石のように優秀な人材が集まり始め、彼らが安心して働ける土壌が生まれます。
信頼の好循環を作る
専門部署が立ち上がれば、あとはサイクルを回すだけです。1〜2ヶ月という短いスパンで目に見える成果を出し続けることで、社内の信頼を獲得していきました。信頼が得られれば、他部署も隠していた課題を相談してくれるようになります。このプロセスが繰り返されることで、改善が改善を呼ぶ「好循環(スパイラル)」が生まれます。
立ち上げから半年で成功体験を積み、1年をかけて組織の形を整える。この期間を乗り越えれば、内製化は一過性のプロジェクトではなく、企業の競争優位を生む強力な武器となるはずです。
まとめ
システム内製化の本質は、エンジニアを雇うことではありません。エンジニアが持てる力を最大限に発揮できる「組織という環境」をデザインすることにあります。
既存のシステム部の枠組みに甘んじるのではなく、時には組織を分離し、技術と経営を繋ぐ優秀なトップを配置する。この初期の経営判断こそが、内製化の成否を分ける唯一にして最大の鍵だと、私は幾度となく思い知らされました。一度この好循環が回り始めれば、内製化はコストセンターから、ビジネスを加速させるエンジニアリング組織へと進化していくのだと思います。