「残業する奴から電気代を取りたい」社長の本音に潜む本質
「残業代なんて本当は1円も払いたくない。だって残業している奴は仕事が遅いだけだから。会社としては電気代や空調費まで無駄にかかっているんだから、むしろペナルティを取りたいくらいだよ」——以前、ある製造業の中小企業社長と膝を突き合わせて話した際、こう吐露されたことがあります。
近頃は残業規制の強化やブラック企業回避の風潮を受け、「定時になったら電気を消して強制退社させる」といった施策を取り入れる会社が増えています。しかし、先ほどの社長の本音にこそ経営の真実が隠されています。単に定時で電気を消して従業員を家に帰せば済む問題ではありません。本当にやるべきなのは、従業員の生産性を引き上げ、余裕を持って定時で帰れる現場を作ってあげることです。そして、その手段こそが「勤怠・打刻データ」をはじめとするITの活用に他なりません。
残業の「質」を見極めよ:打刻データと作業時間の照合が暴く真実
特に製造業のような現場においては、タイムカードの勤怠・打刻データと、現場での実際の作業開始・終了時間を照合させることが不可欠です。この2つのデータを分析することによって、初めて「その人が残業している本当の理由」が明確になります。
一口に残業と言っても、その「質」は全く異なります。例えば、作業自体が標準時間よりも遅く、自分の仕事が終わらないから残業しているのか。それとも、本人の作業スピードは非常に速いものの、周囲の遅れを手伝ったり想定外のトラブルに対応したりした結果として遅くなっているのか。定時一斉消灯のような力技では、この決定的な違いを完全に無視することになります。一斉に電気を消しても、作業が遅い人の処理速度が上がるわけではありません。原因をデータから特定し、個別に指導・改善を図るからこそ仕事が速くなり、自然と定時で帰れるようになります。
ダラダラ残業が得をする? 不公平な評価制度が優秀な人材を死に追いやる
「手際よく仕事を速く終わらせて定時で帰る人より、ダラダラ残業している人の方が手取りが多い」——こうした現場の不公平感は、組織を内側から崩壊させます。仕事のスピードを上げずダラダラ働いている人が高い給料をもらい、生産性の高い人が損をする構造を放置すれば、優秀な人材から順番に会社を見限って離職してしまうでしょう。
世間の「一律残業削減」という一般論に流されるのではなく、標準時間を基準にした正当な評価軸を導入していくべきだと考えています。作業が速く、高い生産性を維持して定時で帰る社員に対しては「給料を上げる」ことで報いる。一方で、作業が遅く無駄な残業を発生させている社員に対しては、安易に給料を上げず、ペナルティを含めた厳格な評価を適用する。勤怠データと生産ラインの数字を紐づけることで、感情論ではない客観的な人事評価が可能になります。
データを軸とした人事革命で、全員が前を向く利益体質へ
これからの時代、中小企業が取り組むべきは表面的な「強制退社」という名の放置策ではありません。勤怠データと現場の数字を掛け合わせた「工数管理×管理会計」によるBPR(業務プロセス再設計)の実践です。
本論のポイントを改めて整理します。第一に、残業データを現場の作業時間と照合し、残業の理由(個人の遅れか他者サポートか)を見極めて個別に指導・改善を行うこと。第二に、標準時間を基準として生産性の高い人を適正に評価・昇給させ、生産性の低い人には厳しい指導と評価を適用することです。
生産性に基づいた合理的な給与体系・評価制度が浸透すれば、社内の不公平感は一気に解消されます。成果を出した分だけ正当に評価される組織になれば、社員全員が自発的に効率化を目指して前を向くようになります。放置された勤怠・打刻データを宝の山に変え、高生産性・高収益な企業体質へと脱却していけるはずです。