手が汚れていても入力できる!現場で壁にぶつかった私が、スマホ・音声・バーコードでデータ収集のハードルをゼロにした話

手が汚れていても入力できる!現場で壁にぶつかった私が、スマホ・音声・バーコードでデータ収集のハードルをゼロにした話

理想論への違和感――現場出向で知った「DX営業」の壁

私にはかつて、製造業の現場に1年間出向していた経験があります。毎日のように現場の汗と油にまみれ、職人の方々と作業を進める中で、中小企業・中堅企業の現場がどのように動き、どのような課題を抱えているのかを身をもって理解してきました。

当時、現場には連日のようにITベンダーやコンサルタントがやってきて、「IoTを活用した効率化」のアピール営業をかけてきました。その触れ込みは「工場の現場にセンサーを配置して自動取得すれば、稼働の開始・終了時間、担当者の動き、在庫の移動履歴まで把握でき、工場が一気に近代化します」という夢のような話でした。しかし、営業担当者が提示する高額な見積書と導入プランを見た瞬間、私は強い違和感とハードルの高さを感じずにはいられませんでした。

高価なIoTセンサーは、なぜ中小企業で効果が出ないのか

一般論として「現場のデータ収集=高価なIoTセンサーの導入」と考えられがちですが、ここに大きな罠が存在します。大量生産を行う大手企業であれば、固定されたラインにセンサーを取り付けるだけで劇的な効果が得られます。しかし、我が国の中小企業の多くは「多品種少量生産」を行っています。

多品種少量生産の現場では、製品ごとに加工工程や使用する機械が毎回変化します。このような環境でセンサーによって効果を出そうとすれば、あらゆる機器にセンサーを張り巡らせ、工程が変わるたびに設定を変更しなければなりません。結果として導入ハードルが極めて高くなるうえ、莫大な導入費用がかかるため、現場の実情に合わず導入に踏み切ることは到底できませんでした。

「現場の泥」に負けない、スマホ・音声・バーコードの逆転発想

では、中小企業は数値による効率化を諦めるしかないのでしょうか。決してそうではありません。当時の私が現場で行ったのは、高額なセンサーに頼るのではなく、より簡易な形で数字を取得することでした。

具体的に活用したのは、現在非常に安価になった「スマートフォン」です。スマホを工場内に配置・支給し、データ取得の基盤を作りました。従来、工場内では「手が汚れている」「手袋を着用している」ためにスマホ操作ができず、敬遠されがちでした。しかし現在は、バーコード入力やスマホの音声入力を簡単に活用できます。手が汚れていても、手袋をはめたままでも、声をかけるかバーコードをかざすだけで簡単に情報を記録できる時代になったのです。

「開始と終了」を紐付けるだけで、進捗と標準化が劇的に変わる

数ある現場データの中で、特に大事だと私が確信しているのが、工程の「開始時間」と「終了時間」の取得です。

やり方は極めてシンプルです。担当者にスマホを持たせ、作業の開始時と終了時に記録してもらいます。このとき同時に、製番管理における「製品番号(オーダー番号)」を入れてもらうことがポイントです。製品番号と紐付けて開始・終了時間を記録することで、「どの製品の加工が、いつからいつまで行われたか」がリアルタイムで把握できるようになり、現場の進捗管理や工程の標準化が強力に推進されます。

ドンブリ勘定からの脱却――現場の入力が「管理会計」に化ける

さらに、収集したデータから製品ごとの正確な作業時間が割り出せるようになると、経営に直結する「原価計算」が可能になります。

従来の作業時間があやふやな状態では、製品ごとの正確なコストが見えず、勘に頼った経営になりがちでした。しかし、スマホで取った正確な時間データがあれば、「この注文は本当に儲かっているのか、実は赤字なのか」を明確に判別できるようになり、ドンブリ勘定から脱却した「管理会計」のステップへ進むことができるのです。

まずは「スマホで開始・終了」を押すことから始めよう

高額なIoTシステムや最新センサーの導入に躊躇する必要はありません。多品種少量生産を支える中小企業に必要なのは、高度な全自動化ではなく、現場に負担をかけずに事実を数字にする「簡易な仕組み」です。

スマホ・音声・バーコードを活用すれば、手が汚れる現場であってもデータ収集のハードルはゼロになります。中小企業の現場データ収集は、まず「スマホを活用した開始時間・終了時間の記録」から始めてみてほしい。そのシンプルな一歩こそが、正確な原価管理と利益率向上のための確実な足がかりになると、当時の経験から感じています。