カバー率にとらわれたシステム選定の罠
これまで私は、数多くの企業における基幹システムやパッケージソフトの選定プロジェクトに立ち会ってきました。そこで目にしてきたのは、提案依頼書(RFP)の膨大なチェックリストを埋め、とにかく「業務のカバー率」が高い製品を選ぼうと迷走する現場の姿です。
例えば、「カバー率80%で導入費用が手頃なシステムA」と、「カバー率95%を誇るが費用が10倍に跳ね上がるシステムB」があるとします。このとき、多くのプロジェクトは迷わず高価なシステムBを選ぼうとします。現場の「うちの特殊な業務に対応していないと困る」という声に押され、経営陣も「高い買い物だが、95%カバーできるなら安全だ」と判断してしまうのです。しかし、私が見てきた限り、この「カバー率至上主義」こそがシステム運用のコストを高騰させ、企業を破滅へと導く最大の原因になっています。
「業務をシステムに合わせる」という教科書の嘘
IT導入の教科書には、よく「標準化されたパッケージソフトの仕様に、自社の業務を合わせるべきだ。ベストプラクティスを取り入れれば業務効率が上がる」と書かれてあります。確かに無駄な業務を削ることは重要ですが、実際の現場では「必要だからこそ行っている独自業務」が大半です。顧客への細やかなサービス対応や、自社ならではのアドバンテージを生み出すプロセスは、簡単に切り捨てられるものではありません。
したがって、パッケージにない機能をどう補うかという議論は絶対に避けられません。このとき、多くの企業はシステム内部の改修(カスタマイズ)を選択します。しかし、システム内部に手を加えるカスタマイズは、パッケージ固有の専門知識が必要であり、特定のシステム会社やベンダーに頼らざるを得なくなります。結果として開発費は高額化し、システムのバージョンアップのたびに改修費用が発生する「ベンダーロックイン」の沼にはまることになるのです。この沼に沈んでいく現場を、私は何度も見てきました。
「ラストワンマイル問題」が明かすカバー率の限界
では、なぜ10倍の費用を払ってカバー率95%のシステムを買っても意味がないのでしょうか。それは、システム運用には絶対に避けられない「ラストワンマイル問題」が存在するからです。
どんなに高機能で高額なシステムを導入しても、最終的なデータの集計、役員会の提出資料作成、あるいは現場独自の微調整のために、企業は大なり小なり表計算ソフト(ExcelやGoogleスプレッドシート)を使います。つまり、カバー率95%のシステムを導入したところで、残りの5%のために結局はExcelを開くことになるのです。であれば、カバー率80%の安いシステムを選び、不足する20%をExcelで処理したとしても、現場の作業負担は大して変わりません。Excelの作業シートが数枚増えるだけでトータルのシステム投資費用が10分の1に抑えられるのなら、経営としてどちらが合理的な選択かは明白です。
APIとGASで実現する「スマートな外付け」という解
ここで重要になるのが、パッケージの不足機能を補う手法の選択です。解決策は大きく「カスタマイズ」と「外付け」の2つに分かれますが、中小企業にこそ選んでいただきたいのは間違いなく「外付け」です。
外付けというと「データをCSV出力してExcelで手作業加工する」という面倒なイメージを持たれるかもしれません。しかし、現在のIT環境では「API」を活用した高度な連携が可能です。APIはいわばシステムの裏口であり、ここを経由して必要なデータだけを安全に外部へ取り出すことができます。
例えば、Googleスプレッドシートのスクリプト機能(GAS)を使えば、重たいマクロ入りのExcelファイルをやり取りする必要もありません。ブラウザ上でボタンを1つ押すだけで、パッケージから最新データを読み込み、自社専用のフォーマットで自動集計・書類出力まで完了します。外付けでありながら、ユーザー体験としてはカスタマイズとほとんど変わらない利便性を実現できるのです。
費用対効果を最大化する経営者のためのシステム選定
システム選定において経営陣が果たすべき役割は、RFPのカバー率という数字に振り回されることではありません。「本当にその5%のカバー率のために10倍のコストをかける価値があるのか」を冷静に見極めることです。
どれほど高額なシステムを入れてもラストワンマイルで表計算ソフトを使うのであれば、高額なカスタマイズや過剰スペックなパッケージに投資するのは資金の無駄遣いと言わざるを得ません。コストパフォーマンスを極めて高く保ち、ベンダーロックインを防ぐための答えはシンプルです。基本機能を網羅した安価なパッケージを選び、自社独自の業務は「APIを活用した外付け連携」でスマートに補うこと。この割り切りと戦略的なシステム設計こそが、中小企業のIT投資を成功させ、事業のスケーラビリティを確保する唯一の道だと、私は確信しています。