赤字製造業への出向、混迷する現場——「気合の増員」も「費用削減」もすべて裏目に出た理由
私はかつて、製造業の現場で約1年間、業務に携わった経験があります。
出向先は鉄鋼関連企業の子会社で、主な事業は鉄鋼製品の加工販売でした。当時、その子会社にはITやシステムに詳しい専門家が不在であったため、組織のデジタル化や業務改善を期待され、私に白羽の矢が立ったのが始まりでした。
しかし、足を踏み入れた現場で待っていたのは、IT以前の極めて深刻な経営危機と混乱の数々でした。
襲い来る問題の連鎖と、終わらない深夜の会議
現場では、あらゆる問題が同時に噴出していました。
- 生産ラインの遅延: 製造プロセスの停滞から納期の遅れが相次ぎ、顧客からのクレームが頻発。
- マクロ環境の悪化: 原材料価格の高騰に加え、景気の冷え込みによって売上高は一向に伸びない。
- 親会社からのプレッシャー: 決算での赤字が確実視される中、親会社からの追及と改善への圧力は増す一方。
このような状況下、経営陣は毎夜遅くまで会議室にこもり、議論を重ねていました。
「どうすれば赤字を回避できるのか」「売上をどうやって伸ばすか」——。
しかし、出される案は「とりあえず既存の顧客を片っ端から回って受注をかき集めてこい」といった精神論に近く、営業マンへハッパをかけるばかりの議論に終始していました。
打ち出した「対策」がことごとく不発に終わる理由
焦りを募らせた経営陣は、次々と対策を打ち出します。
まず着手したのは、営業力の強化です。「売上が上がらないのは営業マンの質と数が足りないからだ」という結論に至り、急遽、営業マンを増員しました。しかし、市場全体の景気が冷え込んでいる以上、いくら人員を増やしたところで発注自体が増えるわけではありません。結果として営業成績は伸び悩み、単に人件費という固定費が増加するだけに終わりました。
次に取り組んだのが、生産ラインの効率化です。外部からコンサルタントを招き、改善策を講じることになりました。製造業の基本である「5S(整理・整頓・清掃・清潔・習慣)」の徹底や、シフトの無駄を削ぎ落とす工程見直しを実施しました。たしかに現場の作業効率自体は向上した体感がありましたが、それが「実際にいくらの利益改善につながっているのか」が数値として見えず、経営数値を押し上げるまでのスピードも圧倒的に不足していました。
追い詰められた末の「在庫処分」と「費用カット」
手仕舞いの見えない状況の中、ついに運転資金の底が見え始めます。現金を確保するため、ヤードに積み上がった在庫の処分(現金化)を検討せざるを得なくなりました。
しかし、ここでも判断の壁にぶつかります。どの在庫が「今後も使う見込みのない不動在庫」で、どれが「残すべき材料」なのかの基準があいまいであったためです。処分を焦れば買い叩かれて損失が拡大し、かといって放置すれば資金ショートを起こすというジレンマに陥りながら、苦肉の策で叩き売りによる現金化を進めました。
最終的には、自力での資金繰りが限界を迎え、親会社からのつなぎ融資を頼る選択をします。融資の承認を得るためには「再生に向けた姿勢と努力」を見せなければなりません。業務に必要な費用まで極限まで削り、給与の一部のカットまで踏み込みました。なりふり構わない姿勢を示すことで、なんとかつなぎ融資を受け、倒産の危機を目前で回避することはできました。
堂々巡りの議論と、見え始めた「混乱の正体」
手作業の改善、人員の増員、費用の削減、給与カット、融資の獲得——。
やれることはすべてやり尽くしたはずでした。しかし、景気回復という不確定な要素に依存するほかなく、根本的な解決策は誰一人として提示できていませんでした。連日の会議は常に「景気が上がれば」「現場でできることをやるしかない」という堂々巡りの結論で幕を閉じていました。
私自身、これほど深刻な経営危機に直接携わるのは初めての経験であり、当初は何をどう捉え、どこから手を付ければよいのか全く見当がつきませんでした。
しかし、この混乱の渦中に身を置き、手探りで状況を分析していく中で、徐々にこの企業が陥っている「混乱の根本原因」が浮かび上がってきたのです。
なぜ、あらゆる手立てが効果を結ばず、現場も経営陣も暗闇の中で足掻き続けることになっていたのか。次回のコラムでは、この混乱を引き起こしていた真の原因と、本来どのように対応すべきだったのかについて詳しく解説します。